小川洋子さん著 完璧な病室

「完璧な病室」を読んで

 

 

小川洋子さんの最初期の作品である「完璧な病室」を読了。

 

重い病気にかかった弟と姉、担当医(S医師)、そして姉の夫が登場人物。姉目線で物語は綴られていく。具体的な病名や治療の生々しさはほとんどなく、病気にかかったが故の美しさや儚さといったものが感じられる作品だった。

 

姉は弟が病気になってから弟への愛しさを初めて感じたということだった。それは過去のトラウマにより家族にあまり特別な感情を持っていなかったからで、病院という日常から離れた空間だからこそ気付けたのかもしれない。実際、姉が結婚した理由として「早く家を離れたい」「弟を一人残してしまって」のような描写があり、彼女は家から出るために結婚したのだと分かる。もちろん、夫に愛情が全くなかった訳ではないだろうが。

もしくは、それまでは弟への罪悪感があったのかもしれない。弟が病気になって、勤め先の病院を紹介・世話したことで罪悪感が薄れ、本来の愛しいという感情を取り戻したようにも感じられた。

 

また弟の透明感も容易に映像が浮かんできた。文中で透明感という言葉が出てくるのもそうだが、姉弟間の会話がほとんど描かれていなかったり、姉が弟の病気に対してある程度受け入れてしまっているからだろうと思った。(会話等が沢山あれば、それだけ弟の印象が強くなってしまうし、姉が悲観的であれば印象は大分違っているはずだ。)

 

最後に姉について。姉の気持ちは大変共感できるものだった。私が同じ境遇であれば、早く実家を出たいと思うだろうし、弟が大変な病気であっても受け入れるだろうし、夫がほとんど家にいない状態であれば深い話が出来ず、他に頼る人が欲しいと思うことだろう。

S医師とは恋愛関係でもなんでもなく、波長があったもの同士共鳴したのではないだろうか。共鳴したことにより、S医師は孤児院経営をし、姉は弟を思い出す時にその出来事も同時に思い出すようになったと考える。特に孤児院経営は、人の生き方を変える出来事なのでこの出来事が姉の独りよがりではなかったということになる。

 

小川洋子さんの最初期の作品ということだが、短編ながらとても楽しめた。他3つの短編も収録されているので、時間があればその感想も書きたい。